しばらくぶりのコラムで、2022年初投稿となりますが、本年も宜しくお願い申し上げます。
今回は、昨年 HEROsアワード(*1)を受賞した千葉ジェッツの JETS ASSIST の成功から他のスポーツクラブにとって学びになる点をご紹介できればと思います。
まず前提として、ジェッツさんの素晴らしい点は、新しい分野のことを「最初にやる」という決断をされたことで、先行利益は計り知れないと思います。とくに、社会的責任活動の実施導入に関しては、昨今よくあるオンラインツールのように、ダウンロードして数秒後から使用できるような類のものではなく、「時間と労力」がかかるため、とにかく早めにとりかかる、という点が非常に重要です。
ジェッツさんが社会的責任活動導入の際、日本にはまだプロスポーツクラブが主体的・体系的にシーズンを通して実施するSSRイニシアチブの事例はほとんどありませんでしたので(良質な単発活動はありました)ので、まだ体現されていない、投資効果が十分に把握できない投資をするには、相当な覚悟が必要です。
でも当時社長をされていた島田さん(現Bリーグチェアマン)のご英断により、経営戦略として導入することを決意され、そのご英断とコミットがそのまま米盛社長に受け継がれ、見事なローンチを果たしました。実はローンチ直前に台風15号による被災地支援が入ったりと、大変な状況だったのですが、ローンチ前から素晴らしい支援活動を展開されました。
現在ではほぼ自立運営をされていますが、ファンや協賛企業様からポジティブなお声も多数頂き、経営メリットも感じられているようで、設計者としては大変嬉しく思っております。今後より多くのプロスポーツクラブにこのようなSSRイニシアチブを展開して頂けるよう、まさに日本スポーツ界のロールモデルとなったJETS ASSISTの成功要因について、分析してみたいと思います。
1)ゆるぎないマーケット基盤とファンの熱狂
プロスポーツクラブが社会的責任活動を実施する際、前提となるのが、「地域での影響力」です。地域社会をよりよい未来に導くためのメッセージがより多くのファンに届き、効果的に行動喚起できることは、活動を通して地域からの「信頼」を得るための、そして経営メリットにより効果的につなげるための必須要件となります。
Bリーグ集客トップのジェッツには、その確かなファンベースがあり、それがJETS ASSIST の成功に大きく寄与していると思います。
弊社クライアントとの最初のミーティングでは、必ず「私が正解を持っているわけではない」ことをお伝えしていますが、成果につなげるための活動に導くための問いをたて、オプションを提示するプロセスにおいて、マーケット情報は必要不可欠です。その基盤が、ジェッツにはあり、「自分たちがどんな発信の仕方や行動をすればファンに届くか」を熟知している点が、最強です。
2)オフコートでの地域との関わりの重要性認識力
昨今「社会課題の解決」という言葉が多用されていますが、ポイントは、その「社会」とはどこまでの領域か、ファン以外の地域全体を見渡す視野があるかどうか、です。実は、数年前は、この視野を持ち合わせているプロスポーツクラブは少なく、またすぐに視野を広げることは難しい場合も多いのですが、ジェッツも最初からできていたわけではなかったところ、この点において「進化力」が高かったと感じます。
例えば、社会的責任活動の人道支援分野で対象とするのは、一般的な日常生活では触れ合うことのない方々です。ニュースでは聞いたことはあれど、困っている人々が本当に地域にどれくらいいてどんな実態なのか。その状況に対して、自分たちがとるべき行動は何か。そういった点に関心を持ち、プロスポーツクラブとしての社会的責任を果たしていくことにどれくらい意義を感じることができるか。その「社会的責任力」ともいうべきマインドセットは、成果に大きく影響する要素だと思います。
3)自ら考え行動できる企画力と行動力
これは、社会的責任活動に限ったことではありませんが、ジェッツはとにかく自主性と企画力が高く、弊社から提案した枠組みや候補の中から、ジェッツに合ったものを主体的に選択し、最終的にジェッツらしい、完成度の高い活動に仕上げることができます。これは1)のマーケット基盤あってのことだと思いますが、「どうしたらファンにより喜んでもらえるか」というプロスポーツとして本質的に重要なことを常に忘れない姿勢が、素晴らしいと思います。
マインドセットに加え、雑多な日常で忘れがちな最も大切なことを大切にできている、当たり前のことを当たり前にやる、というビジネスの基本ができていることは、やはり重要です。
4)選手の自主的かつ積極的な協力
ジェッツの選手の皆さんの社会的責任活動への貢献には、本当に頭が下がります。HEROsアワードに代表して出席されていた原選手は、ご自身のご経験から、長期療養が必要な子ども達の支援活動を当初から希望されており、現在も継続的に実施されています。また、旗艦プロジェクトとして実施した「絆シャツプロジェクト」からフードドライブ、アースアワー等、毎月実施していた様々なコーズに対応した活動には、選手の方々にご協力頂き、発信力が高まりました。
弊社からとくに選手の協力を要請するようなことは一度もありませんでしたので、現場の協力体制や選手の方々の高いお志が成し得た技ですが、選手からの発信により、JETS ASSIST の活動やメッセージがファンの心により効果的に届いたことは、言うまでもありません。
また、HEROsアワードの映像から、選手の皆さんご自身が自ら学び、「励まされたのは自分だった」等のコメントや、チームのSSRイニシアチブとして実施していくことのメリットについてもご自身の言葉で語られていたのは、感銘を受けました。昨シーズン優勝された際には、社会的責任活動を実施されているジェッツだからこその偉業、と感じていた私ですが、田村社長も同じような発言をされていて、感慨深かったです。
5)やりきる力
これも社会的責任活動に限ったことではありませんが、ジェッツは「やりきる力」がかなり高いと感じます。冒頭で述べた、JETS ASSISTローンチ直前の支援活動も、私からは端的なディレクションのみで現場にお任せしていたところ、自分たちも大変な中ここまでやるのか、というくらい、全力で献身的に取り組まれていて、ジェッツファンの熱狂を理解できました。
もちろん年間を通じて実施する活動の準備には、うまくいかないこともあり、予定通り実施できなかったものもあります。でも、理想形でできなくなった状況において、どういう次善策をとるか、はさらに重要で、そこで目的達成のために何がどこまでできるか、に真摯に対峙し行動できるか、が成果につながる大きな要素だと思います。
これも「ファンや地域を大切にする姿勢」あってこそのものだと思いますので、やはりプロスポーツの本質を理解し行動に移すことが最重要、という点は、マーケティングでもPRでも広報でもそうですが、社会的責任活動においても、まさしく同じだと思います。
現在は田村社長のもと、「ささえるから始まる」JETS ASSIST の活動を継続実施して頂いていますが、ジェッツ・コミュニティに改めてお祝いとBig Hug をお送りするとともに、今後も益々のご活躍をお祈りしております。