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国連とIOCが主導する「スポーツ気候行動枠組み」重要ポイントまとめ

早いものでもう師走です。年を越す前に、世界スポーツ界におけるサステナビリティ推進の最重要軸、国連「スポーツ気候行動枠組み」の重要ポイントについておさらいしておきましょう。

まずは基本からいくと、「スポーツ気候行動枠組み」とは、国連とIOCが主導し、世界スポーツ界が一丸となって気候変動問題に取り組む枠組みのことで、署名団体は、2030年にCO2排出量半減、2040年にネットゼロ(正味排出量ゼロ)を目指しています。正式名称は、「スポーツを通じた気候行動枠組み」といいます。長いので、環境省と国連情報センターの許可を得て、弊社と弊社関連活動及び弊社クライアントからの発信では、非公式短縮名称の「スポーツ気候行動枠組み」を使用しています。

もともと、2018年のCOP24で始動したもので、署名団体となるには、トップリーダーが以下の5つの原則にコミットする必要がありました。

原則1)より大きな環境責任を担うため、組織的な取り組みを行う

原則2)気候変動の全般的な影響を削減する

原則3)気候行動のための教育を行う

原則4)持続可能な責任ある消費を推進する

原則5)情報発信を通じ、気候行動を求める

この5つの原則には、2つの切り口があります。ひとつは、自社事業の環境負荷(CO2排出量)削減に努めるという切り口。もうひとつは、スポーツの「影響力」を活用して啓発活動を実践する、という切り口です。ポイントは、国連は後者により期待をしている、という点です。

「2030年のCO2排出量半減」「2040ネットゼロ」という2つの新基準は、COP26で設定されたもので、日本からこの新基準にいち早く署名したのが名古屋ダイヤモンドドルフィンズです。続いて、アルバルク東京と群馬クレインサンダースもすぐに署名しました。この新基準までの経緯や背景については、複雑なのでまた別の機会に説明できればと思いますが、日本は何かと世界でプレゼンスを示すことができていないなか、Bリーグから3つのクラブが署名できたことは、素晴らしいと思います。

CO2排出量の計測方法については、弊社の専門外ですのでここでは触れませんが、ひとつ重要な点は、CO2排出量計測は、計測が目的ではない、ということです。つまり、目的は「削減していくこと」にあり、計測はその目安でしかない、ということを大前提として理解しておく必要があります。

そして、日本人が犯してしまうミスを誘導する思い込みの最たるものをふたつあげておきます。

1)計測は、できる限りの精度で詳細まで対応しなければならないという思い込み

CO2排出量の計測は、そもそも推定値で測るものですので、経理のように、実数値が緻密に反映されるものではありません。もちろん、だからといっていい加減に計測してはいけませんが、この性質を十分に理解したうえで、「全力を尽くせばよい」という観点は重要です。

スポーツ界の事業構造的に、すべてのスポーツ団体に共通していえるのは、排出量が最も多いのは、「ファンの移動による排出量」です。世界大会やレースなどでは、全体の排出量の95%以上、欧州サッカークラブで75%程度といわれており、公共交通機関が発達した日本の都市部のクラブでも、50%を切るところは、現状おそらくないと思います。ポイントは、ここを計測項目から外さず計測して割合を把握し、ファン啓発をしっかりと行うことです。社会インフラが整えば、ゼロに近づく部分で、自社努力では削減しにくい部分ですが、そこをさぼらない、という点が重要です。(とはいえ、車社会の地方都市では経営上厳しい部分もあるので、やり方は工夫する必要があります。)

2)自社がCO2排出量をゼロにしてからでないと、啓発してはいけないという思い込み

これは、日本の文化を理解すれば、ごもっとも、といえる点かもしれませんが、世界基準は真逆であることをまず理解しましょう。

世界のロジックは、こうです。

「地球の危機的状況に今すぐ対応する必要があり、何を待つ必要があるのだ?」

ティッピング・ポイント(地球の温度がここに達してしまうともう二度ともとの地球に戻れなくなるというポイント)まで、刻一刻と時が迫る中で、「社会への影響力」のあるスポーツ団体が声を上げない、その影響力を活用しないのは、社会的責務の不履行である、くらいのマインドです。

ファンや地域社会に申し訳が立たない、という見方もあるかもしれません。

でも、考えてみてください。選手がシュートを外した時、ファンはその選手を罵倒して攻め続けますか?チームが負けた時、その敗戦を理由にファンをやめますか?

ごく一部には、そのような人たちもいらっしゃるかもしれませんが、基本的にファンは、シュートを外しても、負けても、応援し続けてくれるはずです。CO2排出量削減という未来のための行動にも、同じ姿勢を貫いてくれるのではないでしょうか。

私は、それを信じます。そして、同じようにそれを信じて、CO2排出量計測削減と同時進行で啓発活動を実践してくれているクライアントクラブ様に感謝しています。

文:梶川三枝

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