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NBAはなぜ社会的責任を果たすのか(1)

今月から、コラムシリーズのタイトルを『Sports Purpose』にリニューアルしてお届けします。”パーパス”は、一般企業でも「企業の存在理由」として重視されているコンセプトですが、これまで通り、「プロスポーツの存在意義」を強化する社会的責任活動の設計導入のヒントや効能について、現場に届けられればと思います。

初回は、先月のBリーグとNBAの戦略的提携発表に刺激を受けて、古巣のNBAの社会的責任活動について少し深堀して書いてみたいと思います。

NBAが実施している社会的責任活動『NBA Cares 』(”NBAケアーズ”と読みます)は世界スポーツ界の関係者の間でも知られており、NBAに関わるすべてのスタッフが誇りに思っている活動です。このSSRブログはプロスポーツクラブの実務家向けに書いていますので、今回は解像度を少し上げて、以下のスキームでシリーズでお届けできればと思います。

第1Q:NBA Cares の理念と背景
第2Q:現在の活動概要とポイント解説
第3Q:事例紹介
第4Q:今後の展望

では、早速第1Qスタート!

現在の活動概要についてご説明する前に、知っておいて頂きたいのは、NBAにとって「社会的責任」を果たすことがいかに重要であるか、という点についてです。

NBA内部では「Social Responsibility(社会的責任)はNBAのDNAである」という理念が浸透しており、トップリーダーから現場のスタッフまで、口を揃えてそう言います。

それには、NBAのマーケットや米国スポーツ界におけるNBAの立ち位置が深く関係しています。

まず、NBA選手の8割以上が黒人であり、女子リーグであるWNBAを傘下組織として持っていること、そしてそのWNBAマーケットの2割以上がLGBTQである、という実態があります。米国で社会的にマイノリティとされる人々が深く関わり、彼らに支えられているプロスポーツリーグ、それがNBA、と言う事実があるということです。これはNFLと大きく一線を画する点で、NBAがマイノリティの支援に積極的に取り組むのは、その背景から必然なのです。

また、もうひとつ、一般的な企業による社会貢献活動の経緯と発展という観点から、見逃してはならない重要な視点は、2000年代初頭の米国でのコーズマーケティングの隆盛からの過剰なプロモーション(現在でいうグリーンウェオッシュ的な流れ)に対応し、前コミッショナーの故デイビッド・スターン氏が、その流れを律し、まず社会的責任を果たすことの重要性を強調したことです。

実際、当時の英エコノミスト誌には、「社会貢献をしている企業としていない企業の収益を比較すると、前者は後者の2割増し」といったリサーチ記事も出るほどでしたが、スターン氏は、2010年にヤンキースタジアムで開催されたスポーツと社会変革に関する国際フォーラムで、きっぱりとこう言いました。

「社会貢献活動は、儲けるためにやるのではない。スポーツという社会性の高い事業を営ませて頂いている我々には、まず社会的責任を果たす責務がある」

実は、私もその場におり、彼の言葉を真摯に全身で受け止め、背筋が伸びた群衆のなかのひとりですが、その伝え方は、”絶叫”に近いものでした。その彼の危機感と使命感が、会場の空気を一瞬にしてつかんだのを今でも覚えています。スターン氏は、『NBA Cares』 始動を含む様々な施策でNBAの集客スランプを回復させた立役者ですが、その先見の明からすでに環境問題への対応として『NBA Green』 も立ち上げていた当時、あの絶叫は、NBA Cares を正しい方向に軌道修正し、トップリーダーとしての「格」を示した画期的なものだったと感じます。

ご登壇後に、少しお時間を頂き直接お話できたのは光栄の極みで、その時に彼のメッセージから学んだことが、弊社事業の礎にもなっているのですが、彼は2020年の元旦に永眠され、弊社事業の展開報告ができなかったのはとても残念に思っています。

でも、スターン氏が絶叫してまで守ろうとした「進むべき道」は、その後、アダム・シルバー氏に受け継がれ、コロナ禍も見事なチームワークで乗り越える活動を展開するような素晴らしいイニシアティブに成長していることに、スターン氏も天国から賞賛を送ってくださっていることでしょう。

日本では、SDGsや社会貢献活動などが社内になかなか認知されず、「社内浸透」という言葉で表現される企業課題のひとつになっていますが、NBAは、リーグだけではなく、クラブのトップリーダーやスタッフからもよく、「Social ResponsibilityはNBAのDNAだ」と言われます。二度や三度ではなく、頻繁に。しかも、「SRは大切」等の抽象度高めな表現ではなく、必ず全員が「我々の”DNA”だ」(”Social Responsibility is our DNA.”)と表現し、情熱がこもっている点に浸透レベルの高さを感じます。実際、昨シーズンのソーシャルインパクトレポート冒頭にあるコミッショナーのメッセージにも、「Social Responsibility is Embeded in the DNA of the NBA」(社会的責任は、NBAのDNAに組み込まれている)というタイトルで、NBAがいかに社会的責任を重視しているかを強調しています。

ところで、「社会的責任」というと、”責任”という日本語の言葉が重く感じてしまう方もいるかもしれません。でも、以前に別コラムでお伝えした通り、日本語の「責任」という言葉には広い意味があり、英語では “responsibility” 以外に “liability” ”accountability” 等の複数の意味を含みます。「責務遂行できなかった際に罰則がある責任」は、liabilityであり、responsibilityではありませんので、あまり気負いすぎず、「スポーツの社会的責任」を果たすことにコミットし、行動して頂けたらと思います。

プロスポーツの最大の価値は、「勝つか負けるかわからない試合に全力で準備し挑む勇気」を人々に与えることだと思います。「スポーツの社会的責任(responsibility)」 は、試合と同じように、挑戦し全力で取り組むことにこそ価値があるもので、ファンは、シュートを外しても、試合に負けても応援してくれます。勝利(オフコートでは社会課題の解決)を目指して共に闘うことが大切なのです。むしろ、難しそうな、ややこしそうに見える社会問題から逃げてしまうと、「挑む勇気」がないことを露呈することになり、存在意義が失墜してしまうリスクにもなり得ますので、ご注意ください。

日本スポーツ界もこれからベッティング旋風に翻弄されていくなか、社会的責任活動の重要性はますます高まってくるでしょう。引き続き皆さまのオフコートでの挑戦をサポートできるよう、精進したいと思います。

次回は、私がピストンズを卒業した翌年に始動した『NBA Cares』の活動概要について、ご紹介します。


※社会的責任活動はポートフォリオが最重要です!あれもこれも、ではなく、必要なコーズに対応し適切なタイミングで実施できているか、簡易チェックするSSR無料相談を是非ご活用ください。(Bプレミアクラブ対象の弊社創立15周年特別キャンペーン詳細については別途ご案内をご参照ください。)

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